手根管症候群とは
手根管とは手関節掌側（手のひら側）にある空間で屈筋腱や正中神経が通っています。正中神経がこの部分で圧迫を受けた病態を手根管症候群といいます。


症状
親指、示指、中指全体と環指の橈側（親指側）のしびれが現れます。（小指は通常の場合しびれない）症状が進行すると親指の付け根の筋肉（母指球)がやせて物がつかみにくくなります。
手根管症候群では環指の橈側（親指側）半分に症状が出ますが尺側（小指側）半分には症状が出ません（ring finger splitting）。このことが手根管症候群を診断する上で重要な要素になります。
手を過度に使用する人や妊娠、出産期や更年期の女性、また透析患者さん（アミロイドが手根管内に沈着するため)に多いです。



診断
手根管で正中神経が圧迫されている部位をたたくと痛みが指先に響きます（Tinel徴候）。

手関節を掌屈させてしばらく（３０秒〜１分)すると症状が悪化します（Phalen's test）。


治療
症状が軽い場合はステロイドの注射を行います。ビタミンBを服用されてもわずかですが神経を回復させる効果があります。
症状が重い場合は手根管の内圧を下げる手術を行います。
内視鏡を用いた鏡視下手根管開放術と小切開での手根管開放術の二種類の手術が主に行われていますが、日本手外科学会所属の医師では八割方が小切開の手根管開放術を行い、鏡視下手術を行う医師は少数派になっています。
手根管症候群の手術について（鏡視下手術か小切開手術か)



手根管症候群の程度が重度で親指の付け根の筋肉（母指球)の萎縮が著しく物がつかみにくいケースでは対立再建術といいまして母指の機能を回復させるために腱を移行する手術を追加することがあります。
対立再建術は主に力源として長掌筋腱を用いる方法と環指の浅指屈筋腱を用いる方法があります。場合によっては小指固有伸筋腱を用いる方法（正中神経の高位麻痺に尺骨神経の高位麻痺を合併するケースでは長掌筋腱は麻痺しており、環指FDSを用いると環指FDP麻痺があるため環指が曲がらなくなるためこれらは力源に用いられない）等を用いることもあります。
長掌筋腱を移行する手術
長所⇒長掌筋腱はなくても手指の動きに与える影響はあまりないので犠牲が小さい
短所⇒対立再建は母指を豆状骨方向に引っ張るのが本来の対立再建であり、その意味では真の対立再建ではない
　　　⇒長掌筋腱が先天的に欠損している症例では使用できない
環指の浅指屈筋腱を用いる方法
長所⇒浅指屈筋腱をpullayを通して母指に固定するため母指を豆状骨方向に引っ張ることが出来、本来の対立再建である
　　　⇒長掌筋腱より環指の浅指屈筋腱の方が力が強く、対立の力が強い
　　　⇒長掌筋腱のように先天的に欠損する症例がない
短所⇒環指の深指屈筋腱が残っているとはいえ環指の動きに多少なりとも影響を与えるので長掌筋腱を用いるより犠牲が大きい

手根管症候群の分類（浜田）

手根管症候群の手術について（鏡視下手術か小切開手術か)

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